最高裁判所第三小法廷 平成2年(行ツ)107号 判決 1990年9月18日
横浜市西区南幸一丁目五番二七号
上告人
株式会社鰻亭会館
右代表者代表取締役
足立昇
右訴訟代理人弁護士
布留川輝夫
横浜市中区山下町三七番地九
被上告人
横浜中税務署長
入江勝利
右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行コ)第二号法人税の更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成二年三月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人布留川輝夫の上告理由について
本件各更正処分及び本件各重加算税賦課決定処分が適法であるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 坂上壽夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)
(平成二年(行ツ)第一〇七号 上告人 株式会社鰻亭会館)
上告代理人布留川輝夫の上告理由
第一 本件推定課税の必要性についての審理不尽の法令違背
一 原判決の本件推定課税の必要性の判断に至る事実認定およびこの認定に基づく本件推定課税の必要性の原判決の判断は、いずれも審理不尽の結果なされた事実認定であり、かつ、かかる事実認定を前提とする判断は違法であり、いずれもその違法は原判決の結果に影響すべき法令解釈の違背として、上告理由とするものである。
二 旧所得税法九条第一項四号の所得税の課税標準となるべき所得額について、事業所得の数額につき、実額調査によることの出来ない場合に推計をもって算定することを許容したと解すべきであり、その推計方法は合理的である必要があり、本件の場合には推計の必要性につき、実額調査の出来る場合であるから推計が許されない場合に当たり、推計の必要性は存しなかったものというべきである。
三 しかるに、原判決の推計課税の必要性の判断の前提としての事実認定として、まず、その売上げ除外の具体的方法は「横浜店」での従業員が帰る午後一〇時頃以降の売上げ除外であり、「もつ焼き一番」においても売上金を実際よりも少なく記帳することによる売上除外であると認定する。
その根拠とするところは、唯一上告人代表者足立昇の自白のみである。
四 乙第一四号証につき、原判決は成立に争いがないとして、右事実認定の唯一の証拠とし、その理由として成立に争いがないとするが、その任意性および信用性につき、その判断こそ本件の最重要争点というべきである。
ところが、原判決は何らの理由を示すことなく、これを唯一の証拠として前記認定をなしたものであり、審理不尽であること明らかである。
五 けだし上告人は、右自白供述の録取された経緯およびその背景につき強制調査をなすも、事前の内偵および調査着手後の実査によるも売上除外の片鱗さえ発見することが出来ず、かつその帳簿も記帳記録がその反面調査に全て根拠付けられ、完璧な記帳がなされていたため、強制調査をした手前、取引金融機関と担当公認会計士を共に威圧し、同人らの上告人会社代表者に対する誤導による利益誘導との上告人の主張に対し、第一審では同代表者の病弱からその証拠調べが出来ぬ事情はあったにしても、原審ではかかる状況も治癒していたに拘らず、最も重要な証拠調べがなされずに原判決は結審し、判決したのである。
六 さらに、右金融機関に対する国税当局による威圧および多額のカナ名義預金の発覚による脱税教唆の脅しによる担当公認会計士に対する威圧、国税の責任者の統括官と貸付金回収によるその資金の出所説明の存在につき、経験則上各その可能性につき、推測出来る間接事実であるに拘らず、いずれも上告人の証人申請を採用することなくされた原判決は、日時の経過とはいえ、余りに審理不尽の違法が存し、その審理不尽の結果は原判決の結果に影響すること経験則上明らかというべきである。
七 特に売上除外の方法として、共にその具体的方法が現実には物理的にさえ経験則上想定出来えぬことを、かかる想定を自白ゆえに認定した上、それを前提として原判決は、推定課税の必要性につき、上告人が売上除外金を記載せず、その原始記録も破棄または焼却しており、その代表者足立昇も事実を隠蔽する等非協力な態度であったため、実額による損益計算をなしえなかたものであるからとして、上告人の所得金額を推計により算出し、課税する必要があったと判断するものである。
しかしながら、右原判決の判断は、前記審理不尽の事実認定を前提としてなされた判断であり、審理不尽の結果として違法である。
第二 本件各更正処分の適法性についての審理不尽の法令違背
一 原判決の本件各更正処分の適法性についての事実認定および同事実認定を前提とする推計方法の合理的とする判断は、いずれも審理不尽の結果なされたものであり違法であり、その違法は判決の結果に影響をあたえるものである。
二 原判決は、順次過去に遡って調査し、個人預金を除外した後のカナ名義預金を移動の経過に照らして各事業年度の期首と期末の金額はそれぞれ事実認定出来るとする。
三 しかし強制調査の結果は、原判決が認定する如く、カナ名義の莫大な預金の発見は事実としても、その反面、上告人会社の帳簿の真実性は徹底した反面調査でも全く揺るがず、かつ、その内偵と実査による営業日日々の売上除外の証拠を全く把握出来なかったのである。
四 そこで、莫大なカナ名義預金につき、国税査察官は、城南信用金庫蒲田支店の担当者をして、いわゆる追跡調査をなさしめた如くであるが、押収印章との不一致で明らかな如く、その正確性を担保する何等の根拠がなく、かつ、預金関係の他の口座との相互流入関係につき、その検討がなされず、その不正確であることはその後修正がなされただけでなく、原審における前田証人の供述もこれを裏付けるものとさえ言えるというべきである。
五 しかるに原判決は、国税当局でさえ、その約半分を個人預金とした程のその分類に疑問が残るに拘らず、かかる事項につき何等の事実調査をすることなく、上告人の分類担当者の証人申請を採用することがなくしてなされたものであり、審理不尽というべきである。
六 上告人会社の客観的帳簿関係がその反面調査で揺るがず、かつ営業日の内偵と実査による売上除外の事実が国税当局の動員によるも把握出来なかったことからすれば、経験則上上告人にとってむしろその帳簿の正確性からすれば、いわゆる青色申告適格者としての実質を上告人が具備していた実質があり、所得税法第一五六条の推計による事業所得の金額の補足を禁ずる実質を有していたというべきである。
さらに、かかる事実からすれば、上告人は本件各事業年度の各申告内容につき、実質上その申告内容の正確性を一応立証したものと言うべきである。
七 そこで、本件各事業年度については、右青色申告者が帳簿を具備している場合は、その事業所得に推計を許さず、とする所得税法第一五六条の法意とこれを具備した場合の一応の立証が出来た場合には、それを否定する具体的特別の事情がなければ推計による財産増減法による所得の把握は、その合理性を欠き違法であり、本件の場合国税査察官に対する供述以外の証拠は何もなく、実質的な証拠調べが上告人側から申請するもそれが許されず、原判決がなされたものであり、審理不尽というべきである。(添付書類省略)